「堺打刃物」ができるまで~鍛冶編~
「堺打刃物」ができるまで~鍛冶編~
「堺打刃物(さかいうちはもの)」の特徴はその優れた、金属を鍛錬する「鍛冶(かじ)」技術・刃を研磨する「刃付(はつけ)」技術にあります。初めに「鍛冶」の製造工程、今回は片刃の工程を見学させていただきます!
住宅地の中にから、小気味良い鉄を叩く音が響きます。
訪れたのは、江渕打刃物製作所。
地金(じがね:鉄)と刃金(はがね:刃の切れる部分です)を接着し、刃金を強く鍛えるのが鍛冶の工程です。なんと26の工程があるとのこと!
簡単にまとめた工程は以下のとおり。今回は工程①から③までを見学しました。
①刃金つけ・火造り
②先付け・切り落とし
③中子とり・整形
④焼きなまし
⑤粗たたき・裏すき
⑥刻印打ち・摺り廻し
⑦仕上げおろし・断ち回し・歪みとり
⑧泥塗り・焼き入れ
⑨焼きもどし・泥落とし
⑩歪みなおし
少し緊張しながら中へ・・・。
鍛冶職人の江渕浩平さん。なんと鍛冶職人歴35年の熟練鍛冶職人!江渕さんによると、型は出刃、柳刃が多く、家庭用の発注はほとんどないとのこと。堺の刃物がいかにプロの職人に愛されているのかがうかがえます。
刃金つけ・火造り
まずは地金(じがね:鉄)と刃金(はがね:鋼)を付けて接着します。
刃金は固く、この部分が包丁の「切れる」部位。これは堺独自の方法なんだとか。
硼酸、硼砂、酸化鉄などで接着剤をつけた刃金と合わせて・・・
赤く燃える炉の中へ!
この時炉の中は1,000度。これ以上でもこれ以下でも接着しないとのこと。驚くべきは、炎の色だけで温度を確認していること!まさに職人の成せる技です!
コークス(木炭)を使って炉を燃やすので、夏場は過酷な作業。「見学に来られた方もしばらくすると逃げてしまいますよ。」と笑う江渕さん。
これを「火造り(ひづくり)」といいます。
先付け・切り落とし
赤くなった地金(じがね)を動力ハンマーで叩きます。こうすることで、地金と刃金(はがね)を接着させます。これを「先付け(さきづけ)」といいます。飛び散る火花!でもこれは地金が飛び散っているのではなく、先程つけた用薬が飛び散っていると江渕さん。
叩きながら、だいたいの包丁の形を整えていきます。これを「切り落とし」といいます。
中子とり・整形
さらに叩きのばしながら、柄になる部分を形づくり、整形します。これを「中子(なかご)とり」といいます。「中子(なかご)」とは、包丁の「柄」に被われる部分のこと。・・・うーん、勉強になります!
「あっ!」という間に包丁の形になっていました。・・・すごい。
ここで江渕さんにちょっと質問してみました。
私「堺刃物と言うと高級なものはお値段が張ります。その違いは?」
江渕さん「刃金(はがね)が固いとコストがかかります。切れ味が良い、というより切れ味が長持ちするんですよ。いいものは1度も砥がずに、1回で100人分の刺身が切れますよ。」
私「え?!100人分ですか?!」
江渕さん「顧客とはプロ対プロ。とても目が厳しいですよ」
本当に厳しい世界!江渕さん、熱く熱く語られました。
今回の見学はここまで。
その後、整形できた包丁をわらの中に入れ徐々に熱を 冷ます「焼きなまし」を行い、ハンマー・動力ハンマーで「荒だたき」し、グラインダーで裏(刃金が付いている側)を研 磨しくぼませる「裏すき」を行います。この作業で物が切れるようになります。そしてさらに叩くことによりより包丁が鍛えられ、ひずみやゆがみを取るのだそう。全体をグラインダーで仕上げる「摺り回し」を行い、再度ハンマーでねじれなどの修整を行います。
焼き入れ・焼き戻し
そして「焼き入れ・焼き戻し」の工程へ。
1,000度の炎で加熱、その後一気に水につけて熱を取ります。この工程で刃金(はがね)の硬度が高まります。近年では温度管理ができる機械による焼きもどしがあるようですが、江渕さんはすべて手作業。コークス(木炭)を使い、温度管理もすべて、炎の色で見極めるのだそう。江渕さんの成せる技です。
「焼き入れは日が暮れてから作業するようにしていますよ。光があると温度がわからなくなるからね」
最後は江渕さんの、さらりと口にする言葉にとてつもないプロ魂を感じ、心打たれました。